そのまま車で家へ帰る。その日久しぶりに二人でご飯を食べた。何か少しでも異変を見せたらいけないと、普通に振舞ってまた兄が風呂に行ったところでトイレへ。
何故かここへ来るととても安心するようになってしまった。喉元まで胃酸が込み上げてくるのを感じていつものように口の中へ指を入れて胃の中を空っぽにする。
一通りすっきりしたところで、ドアを開けると目の前には兄が立ちはだかっていた。急に心臓を鷲掴みにされたようにドキっとする。
「……え?お風呂どうしたの?」
「いつからこうやって吐いてたんだ」
「い、いつもじゃないよ。最近胃の調子が悪くて、ちょっとムカムカした時だけ…….」
今度こそ問い詰められるかと思ったが、そうか、と一言言っただけで兄は何も言わず、ただ難しそうな顔をしてお風呂場へ向かった。
その日を皮切りに亜弓さんが家へ来ることはなくなった。自分のせいでもしかして家に来るのを控えるようにしたのかもしれない。やっぱり亜弓さんが原因で体調を崩したことがバレてしまったのか。しかし兄はいつもと変わらない調子で、それでもなんとなく亜弓さんの話題を出すのは怖かった。
もしかして別れたなんてことないよね……。最悪を考えて思わず血の気が引く思い。亜弓さんとどうしたのって、聞きたいのに聞けない。でももし自分が原因で別れたなんてことになってたら、なんとか阻止したいと思って直接亜弓さんのところへ行った。
学校帰り、お兄ちゃんが現場へ出ているのを確認して亜弓さんを呼び出す。
「りんちゃんどうしたの?」
「あの……、お兄ちゃんと別れちゃったんですか?」
「え?」
「最近うちに来なくなっちゃったから」
「あー……うん、二人で相談してさ、別に付き合わなくても良いねって」
「な、なんでっ?」
「友達でもいいかなって」
「も、もし兄から私が体調崩したとか言われたなら違いますから!私は亜弓さんで本当に嬉しくて、良かったなって」
「うん、でも私もりんちゃんの体が心配だよ。付き合った時、お兄ちゃんにとって、りんちゃんが1番だっていうのは分かってたから。もし、それが原因でお別れすることがあっても私は絶対引きとめられない。だからお兄ちゃんも私と付き合おうと思ってくれたんだと思う」
「そんな」
「でも、りんちゃん。お兄ちゃんだけじゃない私もなの。私達の関係なんかより、りんちゃんの方がよっぽど大事なんだよ」
「……っ」
「だって、いくつから面倒見てると思ってるの」
「ごめんなさい、ごめんなさい」
「そんなに泣かないで、そんな泣いた顔をお兄ちゃんが見たら心配するよ。あえて言うけどこれ以上体調崩したらお兄ちゃんも道連れにしちゃうからね」


