キミがこの手を取ってくれるなら


「まだ時間は大丈夫か?」と奏ちゃんは心配そうに聞いてくれたけど、最後の取材先だし、直帰になっても構わないだろう。北原さんだってキラキラのケーキとパン達を、陽介さんご自慢のブレンドと一緒に堪能できて内心は嬉しいはずだ。

コンビを組んで1年ちょっと。人のことをさんざん食い意地が張ってるように言うけれど、北原さんが甘いものには目がない、ということを私は知っている。


じゃあゆっくりしていって、という言葉に甘えて私は「ラテアート、久しぶりに見たいです。」とお願いした。
奏ちゃんが作ったケーキもじっくり味わってみたかった。

ちょっと失礼、と北原さんに言い、陽介さんがカフェラテを作りはじめた。すーっとミルクの表面をなぞって描いたのは、おなじみのハートの模様だった。

運んで来てくれた木村くんに礼を言い、ケーキとパンと一緒に堪能する。

「…美味しいー。」

自然と笑顔になる。
甘さが控えめのクリームは中にサンドされているイチゴとよく合っていた。スポンジはきめ細かく軽い口当たりで、ホールでだって食べられそうだ。

こうしてじっくり味わってみると、とても丁寧に作り上げられていることがよく分かる。
一人前のパティシエになるためにどれだけ年数がかかるかは分からないけれど、このケーキひとつをとっても、奏ちゃんの今までの努力が感じられて胸がいっぱいになってしまった。