キミがこの手を取ってくれるなら


取材当日。取材先に向かう車の中で、予定表にちらりと目をやる。
今日の取材は3件。
最後の店は「Milky Way」だった。


「奈緒子ちゃん、待ってたわ。いらっしゃい!」店内に入るとすぐ、笑顔で志帆さんが出迎えてくれた。

「お電話ではご挨拶していましたが、はじめまして。『タウン羽浦』の北原です。」と北原さんが挨拶をする。北原さんには私がこの店の常連だということは伝えていた。

ただ「Milky Way」に来るのは、ずいぶん久しぶりだった。就職してからはなかなか時間が取れず、足が遠退いていた。

「で、お前の自慢の幼なじみはあの人か?」
北原さんがこっそりと私に耳打ちしながら、正面のショーケースの奥を指差す。
「ずいぶん、いい男だな。」

奏ちゃんは私に気がつくと、にこやかに笑って手を振ってくれた。

奏ちゃんはもう、ウェイターではない。専門学校を卒業して、志帆さんの知り合いのカフェダイニングで働かせてもらいながら、「Milky Way」でも志帆さんからパン作りの手解きを受けている。

パティシエ見習い、といったところだろうか。

取材は陽介さんも、パートの聡子さんも、新しくウェイターとして入った木村くんも一緒に 立ち会い、賑やかに行われた。

「商品が増えたことはぜひ取り上げていただきたいです!どれも自信作ですから。」

と、はじめて会った日と同じように志帆さんがにこりと微笑んだ。そして「ね。」と奏ちゃんと目を合わせてまた微笑む。


出会った頃の凛とした笑顔とは違って、その微笑みには柔らかさが感じられた。