4月になった。
新年度になり、新入社員の教育係になった奈子は忙しい日々を送っているようだったが、俺に頼ってくれることは無かった。

愚痴すら言ってくれなかった。


長年こんな関係を続けていたら、俺も取り繕うことばかりが上手くなってほんとの気持ちが言えなくなった。

もがいていた。
いくら側にいても伝わらない気持ちに。


……違う。伝わっているはずなのに、こっちを見てくれようともしない関係に。


そんな疲れた心に、追い討ちをかけるように、俺は新学期の忙しさに飲み込まれていった。


***

「相談したいことがあるんだけど」

……またか。

もう何度この言葉を聞いたか分からない。

俺に話しかけたのは崎山 香織。
元カノの彼女は、何とこの4月に俺の勤めている小学校に赴任してきた。

ちょっと思い込みの激しい面がある彼女は、これを運命だと勘違いしてしまったらしく、先日、とうとうやり直して欲しい、と切り出されてしまった。

同僚としての範囲でしか接していなかったのに……完全な失態だ、と思っていた。


きちんと断ろう。忙しくて、何だか最近身体の調子が悪かったが、このストレスのせいもあるだろう。
今日で『相談』に付き合うのも最後にしよう。
そう思って「分かった。」と返事をした。