細い肩にそっと手をかけ、顔を近づける。


口唇が触れそうになった瞬間、奈子の目に怯えの色が映ったのをはっきりと感じた。


……何やってんだ、俺は。

もう奈子の顔を見ることができなかった。
「遅いから送ってく。」


車内では一言の会話もないまま奈子の家に着いた。

「小5の時の奈子の髪ってこれくらいだったよな?」

「今の髪型も似合ってるけど伸ばしてみたら?」

奈子は無言だった。きっと戸惑ってるんだろう。

「奏ちゃんのお姫様になりたい」と髪を伸ばしていた奈子や、肩まで伸ばした髪を震わせて、奏の側にいたいと涙を堪えていた奈子を覚えていたのは俺だけのはずだから。


返事を聞かないまま車を走らせた。


頼むから、……俺を拒絶しないでくれ。