キミがこの手を取ってくれるなら


その時、「あれー?姫さぁん!」という陽気な声が頭の上から降ってきた。

…うわっ、その声は。

「噂をすれば何とやら、なの?」と紫ちゃんがこっそり耳打ちする。私は苦々しい顔でうなずいた。

「偶然ですねー。」と数人の男友達と一緒にこっちにやって来るのは、今まさに私を悩ませている『空気を読めないガンガン男』の沖田くんだった。


「お友だちと一緒ですか?お友だちさんも美人ですねー。俺たちと一緒に飲みませんか?」

「遠慮しとくわ。」と紫ちゃんは、沖田くんを無視してメールを打ちはじめた。

その間にも、無理やり私の隣に入りこむようにして沖田くんが座ってしまった。

紫ちゃんは、慌てる私のことも無視して、さらにどこかに電話をかけている。

「お、おともだちはいいのっ?」

「大丈夫っす!俺、この人と飲むから。」口説いてる途中なんだよねー、なんて楽しそうな口調でみんなに話すもんだから、お友達たちは「おー、頑張れよー。」なんて言いながら他の席に行ってしまった。

まだ何も飲んでいないこの男は、酔ってもいないのに、私の肩に手を回しながら何だかんだ話かけてくる。

……面倒だ。手を離す気にもなれないくらい、全てがめんどくさい。

私はこの状況に心底嫌気が差していた。

帰ろう。そう思ったその時、肩に回された手がバシッと乱暴に払われたかと思うと……後ろから急にぐっと肩を掴まれた。

「遅いわよ。」

紫ちゃんが待ちくたびれたわよ、といった目線で私の後ろを見やった。


「うるせーな、死ぬほど急いで来たっつーの。」


聞き慣れたその声に驚いて振り返る。
後ろに立っていたのはじゅんただった。