ふんと顔をそむけたスンホンの父親は、こちらを嘲笑うかのように首を振った。

「おらぁあんたを見損なったよ。子供がどうにかなっちまったのに捜しにもいかねぇ。そのうえ何だい虎なんか庇いやがって。そんな畜生、ぶっくらわしてくれらぁ」



拳で卓を叩く鈍い音が、部屋に響く。子供ならこんな脅しにだってびくびくと首をすくめるだろう。

小さくなったスンホンが、言われるがまま父親に従うのが見えるようだった。



ドンと鈍い音が足元からおきる。父が床を棒で叩いた音だ。

「お前ばかりが父親だと思うなよ
スンホンばかりが子供だと思うなよ」


あきらかな怒りの滲む声音に身がすくむ。父の怒る姿を見たことはなく、怒りの矛先が自分でないことが解っていても、やはり恐ろしい。




「俺だって父親だ。近くに住むスンホンだって、自分の子供みたいに面倒を見てきたつもりだ。
お前さんはスンホンが居なくなって初めて騒いでいるが、生きていた時はどうだ動物みたいにスンホンにあたっていたじゃないか。

スンホンは優しい。優しすぎて母親のホンサムを取りに行って帰れなくなったのだよ。知ってるのか、スンホンがそこまで思いつめていたことを。

スンホンが居なくなったのには、お前さんの責任もあるだろう。家を顧みないお前さんのために、スンホンはよく手伝っていたじゃないか。夕餉の支度をするために薪を集めたり、食べられる山菜を集めていただろう。

お前さんがどれだけスンホンのこと…ほかの子供のことを知っていると言うのか」


父の怒りは、そばにいる あたしにも ちくちくとして針のように刺さる。



「御託を並べていやがる。お偉い先生みたいじゃねえか。ふざけやがって」


「ふざけている…だと」


ぴくりと父の片眉があがる。ずっと鼻水を吸ってスンホンの父親が話をつなぐ。


「ホンサムなんてスンホンは持ってねぇよ…遺体んとこにはなかった」


「子供がそんなに簡単に見つけられる訳ないだろう。大人でさえ見つけられないのに…ホンサムを見つけに行く以外に子供の群れから離れる理由なんてなかった。ハンはいい兄で果実や茸をよく見つけるし、独り占めなんてしない。スンホンにも十分に分け与えたはずだ」



知っているのかと問われて、スンホンの父親は鼻じらむ。



「おらぁ見てねぇことは信じねぇ」


「なら聞けばいい。ハンもソウニャも嫌とは言わんだろうよ」

「へっ あいつらの何が信じられるって言うんだ。そいつら、うちのスンホンを見捨てやがったんだ」

ぎりぎりと父が歯を食いしばっているのを感じる。放っておいたら危険なほど怒りを放出している。