ゆっくりと歩きだして、やがてそれは早足になり、いつの間にか走りだしていた。

耳元で風がうなり、風を切る音がする。風のなかにあたしがいるのか、あたしが風をおこしているのか どちらかは解らない。

風に包まれて駆けていく。

どこを走ってきたのか目印のない山だと思っていたけれど、ひとつとして同じ木はなく、ひとつとして同じ石はない。みな しな垂れたり、揺れ動いたり、あたしの来た道を示す。



頼らなくても、嗅覚の鋭くなっている今では、自分の残した香りを追うことで、父にまで辿りつけそうだった。