その時、風もないのにガサガサと笹藪がうごめいた。



 やだ、熊だったらどうしよう……

 心配で体が固くなる。怖くて目をそらせないでいると、藪を割って出てきたのはスンホンだった。

 それを見て、やっと息がつける。


 スンホンは小さな体に不似合いな大きな上着を着て、掻き分けた笹で顔や指にいく筋もの切り傷をつくっていた。


「ちょっと来なさい、スンホン」


 こそこそと、ハンの方に行こうとしているのを呼び止める。悪いことをしている自覚があるのか、びくりと肩がはねる。


「ひとりでの行動は禁止のはずよ。何してたの」

 怯えた顔をしたスンホンは、後ずさるように離れようとしたので、離れた分だけ間合いをつめる。


「……なにもしてないってば」

「じゃあ…何、探してたの。ひとりが勝手にすることで回りに迷惑がかかることがあるのよ」