声が闇に紛れ、また虫の声が戻ってくる。

 熊たちも、重い体の向きを変えて山へと戻っていく。


「あ…ありがとう。本当にありがとう。運んでもらって…穴を掘ってくれて…手伝ってくれて…ありがとね』



 背中に声をかけると、喉の奥から声がした。ぐるぐると猫が喉を鳴らすような声で、かわいらしくて顔がゆるむ。



『お前の家まで送ろう』

「うん。ここがどこだか、わかんないや」



 黒い獣と並んで歩く。何か聞かなくてはいけない気はした。

 でも教えてくれないことも、わかった。知らなくてはいけないなら、ちょうどいいタイミングで知ることが出来るのだろう。



『行くぞ』



 もう一度、虎の眠る塚を見た。体から離れて、心は自由になっただろうか。

 どこまでも走っていける魂は、どこを駆けているんだろう。

 夜を駆けて懐かしい魂と会うことができただろうか。







 夜を駆けて あたしも帰ろう。あたしの生きる場所に。