山の木々を透かして松明が揺れる。

 風のようなこだまが繰り返し山を渡る。

 連れ帰った小さな子供達は、迎えに来た家族に連れて行かれ、ハンはまた山へ大人を案内していった。



 ほーいほーいと呼ぶ声は、ふくろうのようで遠い。

 何度も同じことを聞かれ、同じ話を繰り返し…苛立ちと怒りを噛み殺すのに、つかんでいた膝はあざと引っ掻き傷が出来ていた。

 ずきずきと耳が疼く。

 考えなしに口から言葉が飛び出して、このざまだ。



 村外れにある家までは、スンホンがいなくなった噂は届いていないのか、父は迎えに来なかった。

 いくらなんでも夜まで帰らないのなら心配してもよさそうなのに。

 月が明るく道を照らし、虫の鳴き声がする。

 心配事さえ無かったら、いつまでも歩いていたいような、さらりと乾いて温かい秋の夜だった。



 ふいに虫の鳴き声がやんで。重苦しい重圧を感じた。
 染みが広がるような不安が纏わり付いてくる。この感覚を知っている…背後が気になり、振りかえり見ても何もない。

 ほっとして向き直った先に、山で見た金の目が、ぽかりと浮かんで見えた。目だけが光って見えるのは、獣の体毛が闇のように黒いからで、目を凝らすと半ば道に踏み出すようにしてこちらを見ていた。