「あのねぇ…スンホンの家はお母さんの病気が大変らしいの。あの子、ホンサム(朝鮮人参)を探そうとしたんじゃない」

 勢いよく顔をあげると、こちらを見つめるソウニャと目があった。

 ホンサムは滋養強壮に効く。ホンサムだけを採ることを職業にしている人もいるくらいだから、貴重で高値で取引される。

 そしてホンサムを採る人は、必ず一人で山に登る。

 ホンサムを見つけても、三年、五年と時が経っていなかったら売れないからだ。
自分が見つけたホンサムが時が満ちて収穫できるまで山を見てまわる。誰かに言ったら盗まれてしまうから一人でホンサムを採りに行く。

 ホンサムを採りに行ったきり帰らない人間はたくさんいた。一人で山に入り、足を滑らせたり、獣に襲われたり…



「馬鹿だわ、ホンサムなんて……薬なんかより、スンホンがいてくれたほうがいいに決まってる……」

 そんな…幻みたいなもの、もっともっと山奥にしかないに違いない。

 ホンサムに滋養があるのは、まわりじゅうの栄養を吸い取ってしまうからだ。自分のまわりに草一本生えないくらい栄養を吸い取ってしまうからだ。

 ぞっとする。

 そんな恐ろしい草のためにスンホンは行方不明になってしまった。

 山に日が隠れ、すぐに闇が降りてくる。肌寒くなってきたものの、気持ちは重く足取りも進まない。



 遠く家の煙りが見えはじめ、心配した家族が捜して呼ぶ声がする。

 気は重い…だけど言わなくてはいけない。



 スンホンが いなくなったと