「おー、薫!どしたー?」

和也が口を開いた。

予期せぬ薫の登場に、少し動揺しているのが分かる。

だが薫は由佳と和也が一緒に居るところを目にしても、全く表情を変えない。


由佳の胸がズキンと痛む。


「何となく、暇だったから。」


そう言って薫は踊り場に腰を下ろした。


「そうかそうか!それにしても、今日は寒いな!なぁ、笠原?」


和也はそう言って、由佳に視線を向ける。

だが由佳は、助けを求めるようなそんな和也の視線に応えることなく呟いた。


「私、教室戻るね。」

「えっ、笠原…」


何か言いたげな和也を無視して、由佳は非常階段を後にする。


どうして――?


廊下を歩きながら、由佳は思った。


小野寺薫は、私が桐島と一緒に居ても何も思わないの――?


「私だけが、小野寺薫のこと好きなのかな。」


由佳は小さく呟いた。