「お兄ちゃん、おはよう」

私はそう言うとお兄ちゃんは呆れた顔をしてほくそ笑んだ。

「萌はまた遅刻?」

私は黙って頷くとお兄ちゃんは手際よく朝ごはんの支度をしてくれていた。

私の自慢のお兄ちゃん、平野 哉汰。

お兄ちゃんとは昔から仲が良くお兄ちゃんには何でも話せるようなそんな存在だった。

「なんか嬉しそうだな、何かあったのか?」

そう言ってお兄ちゃんは自分の持っていたコーヒーを一口啜った。

「うん、まあね。でも大したことないよ?」

私はお兄ちゃんが用意してくれたトーストを齧ってお兄ちゃんを見ると真剣な顔つきで私を見ていた。

「諦めるつもりか?」

‥‥‥‥諦める、か。

お兄ちゃんは女の子にも困ったことが無く何でもそつ無くこなす器用な人だ。

曲がったことが大嫌いで負けず嫌い。

その部分だけは私にも遺伝しているような気がする。

「そういうんじゃなくて進路とか気になっちゃって‥‥」

「萌が進路気にするなんてな、珍しいこともあるんだな」

「な…私だって一応気にするよ!」

慌てて咀嚼したパンが喉につっかかりそうになるのを押さえながら飲み込む。

「慌てて食べるなよ、ちゃんと考えてるんだなって感心したんだよ」

そう言ってにっこりと笑ってくれるお兄ちゃんは、やっぱり自慢の兄だ。

「萌はさ、硬く考えすぎだよ。」

「俺だって毎回そんなに恋愛で頭抱えたりしないしさ、直感とか運命とかやっぱり絶対あるからさ」

「萌がいいなと思った人に本気でぶつからないと、後悔するって話な」

「進路だって自分が望んだものに全力でぶつかるだろ、それと同じだよ。な?」

お兄ちゃんはそう言うと携帯を片手に、夕飯は作れよ!と一言。

「彼女と会うの?」

「まあな、せっかくの休みだしデートだよ、デート。」

片手をサラーっと横に振ってリビングから出ていくお兄ちゃんを見送って、

ハーっと溜息が溢れる。

…直感とか、運命なんてあるわけない。

あるとしたら偶然が重なった必然。

恋愛ドラマの見すぎなのか、お兄ちゃんが馬鹿なのか、二択だろうななんて考えると納得が行く。

けれど心の奥底では期待している。

いつか私にも恋と呼べるような素敵な感情が現れるのかな、なんて。