春、桜が満開の季節はどことなく切ない。

春の匂いに鼻を掠めつつ私は小さく深呼吸した。

私の名前は平野 萌、高校三年生。

入学して早三年が経ったのかと思うと、時間を入学式から早送りしたようなそんな感覚になる。

眠たい目を擦りながらベットで横たわっていると、手元の携帯が震えた。

「起きてる?」

メッセージの送り主は席替えしてから近くになったクラスメイトだった。

日比野響くん、入学式の時に寝坊をしてきた私に向かって大笑いしてきた男子だ。

最初は私も苦手意識があったはずなのに仲が良くなるうちに段々とその気持ちは薄れていった。

そこからまめに連絡を取るものの二年では他クラスだった為に話す機会は無いと言っても仕方無いくらいだった。

三年になって同じクラスになった日比野くんは、私によく連絡をくれるようになった。

きっと恋愛感情では無いのだろう、そう自分には言い聞かせていた。

日比野くんは男女共に人気があり決してモテないということは無いだろうし、

そもそも彼女がいるかなども私は聞いたことがない。

連絡を取っているからと言って日比野くんのことを何でも知ってる訳では無いし、

むしろ連絡は取らずに日比野くんのことを理解している他の女子の方が幸せだろうと思った。

日比野くんの事を好きになってからというもの自己暗示の日々が続いていた。

三年生になって告白、というのも違う気がする。

それにお互い進路選択が間近に迫っている中で私が告白したら、と考え事は厄介さを増すばかりで解決のめどは全くと言っていい程立っていない。

恋という気持ちをわからない私にとっては応用例題の数学の問題よりもはるかに難しかった。

「おはよう、今起きたところだよ」

少し間を置いてからメッセージを送ると、すぐにメッセージが表示された。

「今日学校来ないの?」

日比野くんは私が来ないことを気にしているらしい。

答えづらい質問に対して私は画面から目を背けてしまった。

進路選択という大きな壁に待っているのは受験というまた大きな壁。

毎日先生達は当たり前のように進路のことについて話しをする中で私だけが取り残されているようなそんな感覚に陥っていた。

恋なんてしている場合じゃないよね‥‥

私は日比野くんが心配して送ってくれたであろうメッセージを無視してベッドから降りた。