ジキルとハイドな彼

「しっぽり飲むにはまだちょっと早いかな」

コウはチラリと高級腕時計に目を落す。

二人で地下のお店に通じる階段を下りて行くと、バーに入る手前からコウはスルリと私の腰に手を回した。

なんというか…非常に慣れた手付きだ。

「ちょっとコレは大袈裟じゃない?」

腰に添えられた手に訝しげな視線を落とす。

「これくらいしないと、薫と俺じゃあ、恋人同士には見えないだろ」

反論出来ず、まぁ、そうね、と不満気に呟く。

JackRoseには聡と付き合っている時に何度か足を運んでいるので、マスターと私は顔馴染みだ。

このお店の常連である聡の動向をマスターに探りを入れるため、鬼刑事は私を店に強制連行したのだ。

「友達っていう設定じゃダメかしら?」と尋ねたところ「友達と二人でバーって不自然じゃない?フリだとしても俺が彼氏なんて薫も鼻が高いでしょ」と却下された。

まったくコウの自信には辟易する。

「あら、いらっしゃい、薫ちゃん」

お店に入ると、マスターが早速私に気づいて声をかけて来る。

「こんばんは、マスター。ご無沙汰してます」

「今日はエラくいい男連れてるじゃない」

マスターは獲物を狙う雌ライオンのようなジットリとした視線をコウへ向けた。

ちなみにマスターは小綺麗なおっさんという為りをしているが、中身はお姉である。

コウがマスターの眼力に怯え、珍しく縋るような目で私を見る。

「だめよー、私の彼なんだから」コウに腕を絡ませて仲が良いことをアピールする。

「何よ、つまらない」マスターは唇を尖らせた。

やっぱり友達、じゃなくて恋人設定にしておいてよかったかもしれない。