ジキルとハイドな彼

「お店決まってるの?」

「うん、自由が丘のJack Rose」

その店名を聞き「ええ?!」と声をあげて私は後退る。

そこは聡と初めて出会ったお店だった。

「嫌よ!か、帰る」

自宅に引き返そうとするが、腕に添えていた手は今やがっちりコウの手と繋がれている。

「言ったよね?一市民として捜査に協力するって」

「言ったけど、これは想定の範囲を越えてるわ!」

「君のした事を考えれば余裕で範囲内でしょ」

この男、痛いところをついて来る…。

「そんなまどろっこしいことしなくたって、黒い手帳をバーンと出して、『こういう者だ』ってやりゃあいいじゃない」

水戸黄門が印籠を出す時のジェスチャーを交えて私は反論する。

「わかってないなー薫は」

コウは人差し指を立てて横に振る。

「正攻法でいくと水商売の人間は話してくれないんだよ。要らぬことを喋って、今後の商売に差支えがあったら嫌だろう?だから知らぬ存ぜぬで通してくる。まぁ、お金でも渡せば別だろうけどね」

「じゃあ、お金渡せばいいじゃない」

「俺はケチなんだ」

その割りには贅沢な暮らしぶりだ。

コウが手を上げると、タイミングよく一台のタクシーが目の前に止まる。

「沖本さん、ご協力感謝致します」

ニッコリ花のように微笑むと、タクシーに引きずりこまれた。