向かいに座る人物が一切視界に入らないよう私は頭を垂れる。

髪が顔を覆って貞子状態だ。

「では今話した内容をこの紙にかいてください」

コウは紙とペンを差し出した。

私は貞子のままそれを受取り、自供した内容を文章に落とすが、ペンを持つ手が震えて上手くかけない。

視界の焦点もボヤけている。

ようやく書き終わると頭を起こし、つっけんどんにコウへと差し出した。

「これで満足?」

奥歯を噛み締め、コウを睨見つける。

「ありがとうございます」

礼儀正しく一礼すると、顔色一つ変えずに用紙を受け取る。

「あなたも…私に嘘をついていたの?」

なんの感情も読みとれない人形みたいな美しいコウの顔を見ていると、喉の奥に熱いものが込みあげてくる。

目に涙が滲んだのを見られたくなくて、私は俯いた。

「今日の所は結構です。また追って確認させていただきたい事項が出てくるかと思いますので、ご協力をお願いします。その際にはまたこちらご連絡しますね」

コウは私の恨みごとなんて無視して淡々と形通りの口上を述べる。

「拒否したら?」

「沖本さん、これは任意ではありません。国民としての義務、ですから」

口の端をあげて微笑んでいるものの、何だか凄みを感じる。

苦虫を噛み潰したような顔で、わかりました、とだけボソリと答えた。

コウが部屋から出ていくと、やる気のないタヌキのような中年警官が入ってきて、今後の説明と一通りの簡単な質問をされた。

しかし、ショックのせいか頭がボンヤリしており、聞き流しているだけだった。