ジキルとハイドな彼

はい、といってコウは動じる様子も全く見せず、長くほっそりした指で手元のファイルを開く。

「あなたには黙秘権があります。またあなたの供述は、法廷で不利な証拠として用いられる事があり、あなたは弁護士の立会いを求める権利があります。もし自分で弁護士に依頼する経済力がなければ、公選弁護人を付けてもらう権利があります」

淡々とコウが容疑者の権利を読み上げる。

「どーゆう事?!私は容疑者扱い?!」

立ちあがろうとして再び雑種犬状態になる。

「はい、残念ながら」コウは顔色を一つ変えもせずに答える。

「私は警察にお世話になるような、やましい事なんて何一つしていない。そんな権利は必要ないわ」

私は毅然とした態度で権利をはねつけた。

「放棄される、ということですね。承知しました」

コウは事務的に言うと、ファイルに目を落しページを捲る。

「では沖本薫さん、あのアタッシュケースを何故持っていたのでしょうか」

コウは感情の籠もっていない機械的な口調で尋ねる。

「届けるように頼まれたから」

「どなたに頼まれたのでしょうか。フルネームで教えてください」

私は無言のままそっぽを向いた。

聡の事は二度とこの男にしゃべるもんか。

こんな素性の知れない男にペラペラ相談していたなんて、自分の愚かさに腹が立つ。

「では質問を変えましょう。あなたはあのアタッシュケースに何が入っていたのか知っていましたか?」

コウは続けて尋ねる。

「え?書類って聞いてたけど」

突然田所が机に両手を叩きつけ立ちあがった。大きな音に私はビクリと身体が硬直する。