ジキルとハイドな彼

「お茶はないの」お箸を銜えたまま小鳥遊に尋ねる。

「この状況でよくそんな事が言えるねえ。薫さんは図々しいなあ」

「よく言うわよ、人のことロクな説明もないまま突然こんなとこに連れて来た上に拘束して」

私は鋭い目つきでキッと小鳥遊を睨みつけた。

「財布も携帯もなくて自動販売機は使えないし、走ってたから喉がカラカラなんだから。それなのにお茶の一杯ものませないなんて、人権に反しているわ!」

わかったよ、と言って小鳥遊はペットボトルのお茶を一本差し入れてくれた。

「ちょっとしょっぱかったかしら」と言いつつ、親子丼を米粒一つ残さず完食する。

小鳥遊はその様子をあきれ顔で眺めていた。

脳に栄養が行き届き、混乱した頭が少しづつ正常に働き始める。

「ねえ、どうして私が警察に連行されたの?なんか悪いことした?」

「それについては追って葛城さん達から話があると思うよー」

葛城… コウの苗字を耳にして顔がピクリと痙攣する。

それほど今はアイツが憎くてたまらない。

「薫さん、約束守らなかったでしょ」小鳥遊の茶色い瞳が私を覗きこむ。

「え?なんのこと?」

「えーひどい。覚えてすらいないんだ。葛城さん結構怒ってたよ。覚悟しなね」

にっこりと小鳥遊は無邪気な笑みを浮かべる。

何か知らないが背筋に寒いものが走る。

じゃあねー、頑張って、と言って小鳥遊は来た時と同様にお盆を持って部屋を出て行った。