ジキルとハイドな彼

「いたか?!」

「いや」

「こっちは?」

すぐ側で足音はとまった。恐らく私の姿を探しているのだろう。

ダストボックスの中で息を殺し、剃刀のように神経を研ぎ澄ませながら外の様子を窺う。

「まさか、この中にいないだろうな」

男のうちの一人がカツカツと歩み寄り、ダストボックスの蓋に手を掛ける。

黒いゴミ袋ごしに蓋を開く音がして、冷たい外気が中に入ってきた。

もう駄目だ…

そう思って強く瞼を閉じた瞬間、男は「うへ」と間抜けな声をあげて咳こむと、直ぐに蓋をしめた。

「いるわけねーか。こんなとこ入ってたら死んじまうぞ」

…生きてますけど、なんとか。

「左の通路をさがせ!」別の男が大声で怒鳴ると、複数の足音が散り散りの方向に走り去って行くのが聞こえた。

ホウ、とダストボックスの中で私は一息つく。

緊張のせいか、嗅覚がイカれてしまったのか、恐らく両方の理由で、先ほどよりも吐き気は随分マシになってきた。

足音が完全に聞こえなくなるまで、じっと外の様子に耳を欹てる。

辺りが再びゴーストタウンのような静けさに戻ると、そっと蓋を開けて、鼻の辺りまで顔を出し、きょろきょろと周囲の様子を窺う。

よし、誰もいない。うまく巻いたようだわ。

よっ、と気合を入れてダストボックスから外へ這い出す。

勿論大事なアタッシュケースも忘れずに。