ジキルとハイドな彼

夜の住宅街をアタッシュケースを抱えて走る。

冷え込んでいて吐く息は白い。

すでに11時を過ぎており、電車の本数もかなり少なくなっているだろう。

大通りまで出て、そこから駒場公園までタクシーで向かうことにした。

あたりの住人は寝静まっているのか、人の姿は見当たらない。

コンビニはさすがに開いていた。明かりが見えて少しホッとする。

その時、店から出てきた黒いスーツを着た中年男と目が合う。

アタッシュケースを抱えて速足で歩く私に「すみません」と不意に声を掛けてきた。

聞こえないふりをして、振り返らずに私は走り出す。

ナンパかしら。

しかし今の自分の格好を考えるとそれはありえないと即座に思い直す。

チラリと後ろを振り返ると、男は携帯を取り出して電話をしているようだ。

こちらにチラリと視線を向け私とバッチリ目があった。

ヤバい…

生物としての本能が目に見えない危険を察知する。

タクシーの姿を探すが、それどころか人の歩く姿すら見当たらない。

大通りに向かいそのまま走り続ける。

数メートル先のT字路を曲がって200m程走れば目黒通りにぶつかるはずだ。

国道なので空席のタクシーが一台くらいは捕まえられるだろう。

その時、T字路から数人のスーツを着た男達の姿が現れた。

「いたぞ!あの女だ」一人が声を張り私の方を指さす。

所謂…追手?

恐らくコンビニ前で見かけたおっさんが電話で仲間を呼び寄せたのだろう。

舌打ちをすると、私は慌てて手前の路地を右折した。