ジキルとハイドな彼

「…すまなかった」

気まずい沈黙を聡が破る。

「こんな事を頼むなんて俺がどうかしてるな。薫に何かあったらそれこそ俺は生きていけない」

忘れてくれと言って、聡はアタッシュケースを旅行鞄にしまい込もうとする。

「待って!」

私は咄嗟に引き止めた。

「何処に…届ければいいの?」

私は手をギュッと握りしめ腹をくくった。

聡がいなくなってしまったら、それこそ私が一生後悔する。

「薫、無理しない…」

「いいから!」私は聡の台詞を途中で遮る。

「どうすればいいか、詳細を教えて」

「薫…」

聡は不安気な表情で私の顔を覗きこんだので、大丈夫、と言う代わりに深く頷く。

「駒場公園の中央広場噴水前に『水口』という若い男が待っている」

駒場公園とはここから私鉄を二線乗り継ぎ、最寄の駅まで20分ほどだ。

そんなに遠い距離でもなさそう。

「水口は歳の頃は30台前半で、黒のアタッシュケースを持っている。これが携帯電話の番号だ。駒場公園に到着したらこの番号に連絡する手筈になっている」

聡は千切ったメモの切れ端を渡す。開くと携帯電話の番号が書かれていた。

「それと俺の渡したダイヤのネックレスを必ず付けて行ってほしい。こちらの目印として相手に伝えておくから」

「わかったわ」

失敗は許されない。忘れないように、言われた事をよぉく脳みそに刻みつけていく。