ジキルとハイドな彼

「ずっと後をつけられていたから、なんとか巻いてきた。だから顔が知られていない薫が代わりに届けてほしいんだ」

物騒な展開に私は思いっきり顔をしかめる。

「人に追いかけられるなら尚更嫌よ。危ないじゃない。また後日郵送かなんかで届けりゃいいでしょ」

「今日じゃないと駄目なんだ」

聡は食い下がってくるが「絶対イヤ!」と言ってプイと横を向き、スゲなくお断りする。

面倒な上に危険となれば尚更嫌だ。

「そこを何とか頼む…」

聡はテーブルに手を着いて頭を下げた。

「…実は工房買収をするにあたり月曜日までにまとまった金が要る。だけど事業を急展開させたせいで資金がショートしそうなんだ」

聡は苛立だしげにクシャりと髪を掻きあげた。

「倒産、なんてことになったら俺は最悪首を吊らなきゃいけなくなるかもしれないな」

聡は表情を引き攣らせて自嘲気味に笑う。

「だめよ!そんこと」考えただけでも恐ろしくて身震いする。

「この書面を今日までに届ければ、月曜日に支払いをしてくれると水口は言ってくれているんだ」

私は青ざめ項垂れたまま黙り込んだ。

急な展開に頭の中は完全にフリーズ状態。

一つ明確なのは、私がこの書類を本日中に無事に届けることが出来れば、彼のピンチを救えるってこと。

しかし、物騒な事に巻きこまれそうで首を縦に振ることを躊躇ってしまう。

二人の間に重苦しい空気が漂う。