ジキルとハイドな彼

「書類をある人に届けて欲しい」

そして、聡はちょっと言いづらそうに「これから」と付け足した。

「ええ?!これから?!」

驚いて私は聞き返すと、聡はバツが悪そうにテヘっと笑い頷く。

「実はタイへの事業展開を進めるうちに、取引先の不正な情報を不正に入手しちゃったんだな」

聡はニヤリと悪代官ばりの悪い笑みを浮かべた。

「何よ…その不正な情報って」私は訝しげな視線を向けた。

「薫は何も知らない方がいいよ」

確かに…。

知ったら知ったで厄介なことになりそうなので、これ以上の追求はしないでおこう。

「で、その情報をマスコミへリークしようと思ったんだけど、こそこそ嗅ぎ回ってたのがどうやらバレたらしい」

聡はやれやれ、と言って、肩を竦める。

黒い旅行鞄からシルバーのアタッシュケースを取り出しテーブルの上に置いた。

その様子は、ロシアのマトリョーシカを連想させる。

「この中にその証拠となる書面が一式入ってるから水口というジャーナリストに届けて欲しいんだ」

聡はまるで弁当を届けるかのごとくライトな感じで言う。

「自分で届けなさいよ」

疲れているのでこれから外出なんてごめんだ。

私はさらりとお断りする。

「そうしたいのはやまやまだけど、取引先の業者が人を雇って証拠を取り返そうと躍起になってる」

私は状況がイマイチ掴めず、はあ、と言って首を傾げた。