「なによー沖本。相変わらず芸人並のオーバーリアクションねえ」

かったるそうに下関先輩が覗き込んだ。

「し、下関さん… これって、封入指示は完了してますか?」

「バッチリオッケーよ。来週明細に封入して印刷会社から投函する手配になってるわ」

「ダメです、投函しちゃ!」

「はあ?あんた何ふざけてんの?」

下関さんはドスの聞いた声で詰めよられる。

「このQRコード、うちの会社じゃなくて、光井純友カードのサイトにアクセスしちゃいます… 」

光井純友カードとはMCカードの競合他社だ。

とはいっても、相手の方が格上ではあるが… 。

「……ぎゃ!」下関さんも野太い声で短い悲鳴を上げた。

それからが怒濤の一日だ。

大至急印刷会社に発送差し止めの手配をとり、営業担当を呼びつけて上司同席のうえ、原因の解明を行う。

結局、印刷会社のデータ差し替えミスだったものの、サンプルが仕上がるまで気づかなかったこちら側も相当間抜けな話しではある。

一連のトラブルもなんとか収束の方向に落ち着かせて報告書を作成する。

気付けば夜の9時を回っていた。オフィスの人影もまばらだ。

週末の予定をキャンセルし―――とは言ってもいつもの腐女子会だが―――缶コーヒーにカロリーメイトを齧りながらパソコンに向かう。

向かいに座る騒動の渦中の人物、下関先輩はいない。

韓流スターのチャンだかチェだかのファンミーティングに参加すべく、定時になると「後はよろしく」と言い残しいそいそと帰っていった。

くっそ…クビにしてやる… 。

下関先輩愛用の健康器具で肩をマッサージをしながら心の中で毒づく。

雇用に関する権限が私にないのは非常に残念である。

怒り任せにEnterキーを叩いて、報告書のタタキを課長と下関さんのパソコンに送信したのだった。