「よくない事が起こったら、必ず俺に連絡して」

平凡なOLの生活に、そうそう厄介な事が起こりうるハズはない、と思いつつも、コウの真剣な眼差しに押されて、私は「わかった」と言いって、こくりと頷いた。

「そして今話した事は絶対に他言してはいけないよ。事態が大きく変化してしまうからね。そうしたら俺も薫を助けられなくなる」

「脅かすようなこと言わないで」鼻の頭にシワを寄せてジロリとコウを睨みつける。

コウはクスリと微笑むと、ポケットからブレスレットを取りだして私の右手首に着けてくれた。

「これは?」

「おまもり…的なもの。薫にあげる」

華奢なホワイトゴールドのチェーンにキラキラ輝く鮮やかなブルーの石がワンポイントになっている。

シンプルだけど洗練されていてとても素敵なデザインだ。

「あげるって…こんな高そうなもの貰えないよ!」

私は慌てて外そうとするが、コウがそっと手を重ねて制する。

「じゃあ、貸してあげる。薫が何のハプニングにも合わない、ってわかったら返して」

でも…と言い淀むが、コウはニッコリと笑みを浮かべる。

何故かその笑顔を向けられると反射的に従ってしまうのだから不思議である。

「じゃあ、お守りってことで少しの間だけお借りするわ」

コウは私の手を取って、腕につけていたブレスレットにそっとキスを落とす。

「薫の事は俺が守るから」

柔らかい唇の感触に思わず頬が紅潮してしまう。

「…よくわからないけど、肌身離さず着けておく」

真っ赤になりながら上目で見つめ返すと、コウは「いい子だ」と言ってくしゃりと私の頭を撫でた。