ジキルとハイドな彼

「薫が心配してるようなことは何もないよ」

「本当?!」勢いよく顔をあげると、コウは笑いながら頷いた。

「しかし、こうゆう時って男に何かされた、って普通思うんじゃない?」

「だって、コウが酔っ払った私に手を出すとは思えないもん。それって、金持ちが屋台のタイ焼きを買い食いするようなもんよ」

コウは再び声をあげて笑う。ちょっと笑い過ぎな気もするけど…。

「随分信用してくれているんだね。薫の美脚にはなかなかそそられたよ」

コウは片眉を上げて言う。

「あなたに一つでも褒めてもらえるポイントがあってよかったわ」

私は力なく苦笑いを浮かべた。

「昨日あの後何があったの?」

「聞きたい?」コウは唇の端を上げていたずらっぽく笑う。

私は顔を強張らせ、こっくりと頷いた。

「自分の失態を知らないとお詫びも出来ないから」

「昨日はあの後、バローロをあけ、シャンパンを空け、その後もワインの白を一本、赤ワインを一本…その他にも色々飲んだよ」

いつの間にそんなに飲んでいたのだろう…ラインナップを聞いているだけでも、吐きそうだ。

「久しぶりだなー…あんな無茶させられ…しちゃうなんてね」

コウは途中で訂正したが、遠い目をしていた。

「小鳥遊はギブアップだと言っているのに薫が聞かなくてね。とうとう小鳥遊はトイレに暫く籠もり、ヨレヨレになって帰って行ったよ。生意気なあいつが、勘弁してください、という敗北宣言を女性にしたのにはビックリしたな」

コウはフッと鼻で笑う。

「その後も飲んで絡んでゲロ吐いて薫もとうとう潰れてさ。家まで送ろうとしたけど、場所はわからない上に全く君は起きなくて。仕方なしに薫をおぶってここまで帰ってきたって訳さ」

回想しているコウの口角はかろうじて上がっているものの、死んだ魚のような目をしている。

昨日はなんだか大変だったようだ。私はまったく覚えてないけどね。