ジキルとハイドな彼

「航生、薫さんに我が家の事はまだ何も話してないのか?」

匠さんが尋ねると、コウは無言のまま俯く。

「ダメじゃない、コウちゃん」

春子さんが鋭い視線を、自分とそっくりな弟へと向ける。

「結婚前提のお付き合いなら、きちんとお家のことを話しておかないと」

「いやいや!そんな結婚なんておこがましい!そんなつもりはございません!」

私はお代官様に捕らわれた罪人のように焦って否定する。

もしかしたら、こんなご立派なお家のご子息であるコウには、何処ぞやのご令嬢である婚約者、なんかがいるのかもしれない。

それが私みたいな超平凡OLにウッカリ引っかかっちゃったもんだから、今日は一家総出で別れるよう説得するために連れて来られたに違いない。

なあんて悲劇のシナリオが頭の中でどんどん膨らんでいく。

「私はいつでも身を引く覚悟は出来てるので!」

私が切羽詰まった顔で言うと、ビューティフルな一族はきょとんとした表情を浮かべる。

「どういう事だ?別れ話になってるようだが」

匠さんは口元に手を当てて、首を傾げる。

「薫はちょっと暴走しちゃう所があるんだ」

コウはニコリと笑みを浮かべる。

「またパニックに陥って、よからぬ妄想に突っ走っちゃったのかな」

コウは宥めるようにそっと私の頭を撫でる。

「皆に伝わってないみたいだから、落ち着いて説明出来る?」

コウに優しい笑顔で諭され、私はこっくり頷く。

「そういえば航ちゃんは昔っから小動物に好かれてたわよねぇ」

「近所の野良猫も手懐けてたよね」

その様子を見て晴子さんとあきは感慨深そうにしている。