ジキルとハイドな彼

「腕を振りほどくことが出来ない程非力なくせに、直ぐに独りで突っ走るほど思慮が浅い」

「お願い。もう、は、離して…」

私が力なく言うとコウに抱き寄せられた。突然の事でされるがままになる。

「無事でよかった…」

耳元で囁いたコウの声は心なしか震えていた。

「…ごめんなさい」私は恐る恐る広い胸に顔を埋めると、人肌の暖かさがじんわりと伝わってくる。

ああ、生きてて本当に良かった。

気が緩んだのか、自然と目から涙が溢れてきた。

「し、死ぬかとおもった…」

「うん」

「こ、怖かった…」

「うん」

コウは今までの荒っぽい扱いから一転し、宥めるように私の背中をさすってくれた。

私はコウの顔が見える位置まで身体を引き離す。

さっきまでの強張った表情ではなくいつもの優しい顔に戻ってる。

「またコウに会えて、よかった」

再び涙がボロボロと頬をつたって流れ落ちた。

「うん」コウは頬の涙をそっと手で拭う。

漆黒の瞳が私を労わるよう顔を覗き込んだ。

私たちは互いに見つめ合う。

その時、車のライトに照らされてクラクションが鳴らされた。

振り返るとタクシーが立ち往生していた。

私たちはどうやら車寄せのど真ん中で2人の世界に浸っていたらしい。

「い、行こうか」

コウは私の肩を引き寄せて、気まずそうにいそいそとその場を後にする。

肩を抱かれたままエントランスを通り抜けてエレベーターへと乗り込んだ。

私と目が合うとコウは慌てて私の肩から手を話す。

「まだ許した訳じゃないからね。薫が暴走したこと」

コウは不機嫌そうに目を細めてこちらを横目でチラリと睨む。

「じゃあ、一晩かけて謝り続けるわ」私はコウの手に指を絡ませる。

「一晩で足りるのかなあ」コウは繋いだ手に力を込めた。