ジキルとハイドな彼

「葛城、ちょっと来い」

突然、上席尾花に肩を叩かれてプライベートオフィスへと呼ばれる。

俺にチラリと向けたキツネ目が鋭かったので思わずドキリとする。

「失礼します」一礼すると後ろ手でドアを閉めた。

尾花は黒い皮張りの椅子に長い脚を組みながら、ゆったりと腰掛けてまっすぐこちらを見据える。

「沖本薫と交際しているとは本当か?」

さすがの俺もこの先制パンチには度肝を抜かれた。

付き合っては、いない。

しかし全く何もない潔白の身とも言い切れない。

動揺をポーカーフェースで隠そうと試みる。

「交際はしていません。そんなインチキ誰が言ったんです?」

「出所は言えない。ただ、お前の自宅マンションから沖本薫が一緒に出て来たのを見た者がいる」

俺の脳裏に一人の男の顔が浮かび上がる。

成川、殺す。

先日捜査に同行させる際に、朝自宅まで迎えに来させた。

その時薫と一緒にいるところを見られたのだろう。

小鳥遊も同居の件は知っているが、告げ口なんて迂闊な真似はしない男だ。

…もし小鳥遊だったらもっとヤバいことになってるだろうしね。

「付き合っていないならどうして一緒にいたんだ?しかも朝」

尾花のキツネ目がつり上がる。

個人的に薫に好意を抱いているようなので、余計に厄介だ。

「沖本薫の知り合いが同じマンションに住んでいるようです。偶然朝エントランスで会いました」

俺がシレっとした顔で嘘を付くと尾花の目が鋭く光る。