ジキルとハイドな彼

「ダメよ、マスタングGTは航生が大事にしてるじゃない」

「でもあきにあげる。だから泣かないで」

「航生…ありがとう」

あきは涙を拭って、嬉しそうにニカっと笑う。

「いいの?航生?」母親も心配そうに尋ねる。

俺はコクコク頷いた。

マスタングGTはもう飽きていたところだ。

「その代わり今度ピアノの発表会で上手に弾けたらアストンマーチンのミニカーを買ってくれる?ママ」

俺は潤んだ瞳で母親をジッと見つめた。

「わかったわ、航生。だからがんばって練習するのよ」

「うん!」俺は思わず笑みが零れる。

正直上手く弾ける自信は、ある。だってたくさん練習しているから。

「本当に航生はいい子ね」

母親は満足そうにニッコリと微笑んだ。

その様子を見て面白くないのか兄はフンと鼻を鳴らす。

「よかったな、おねだりが上手くいって。いいこぶりっこ」

腹いせにすれ違い様、俺の頭を小突く。

「匠!」

母親の目が再びつり上がると怒られる前に兄は走って逃げて行った。


欲しい物は力づくでも手に入れようとする自己中な兄。

何度も同じ目に遭っても学ぶことのない愚図な姉。

2人を間近で見ながら育っていれば、嫌が応にも要領良く立ち振る舞う術を身につける。


幸運な事に容姿にもそれなりに恵まれ、それに甘んじることなく人並み以上に努力もしてきた。

自分は一通りの事は何でも器用にこなせるし、欲しいものは大抵手に入れられると自負していた。


…彼女と会うまでは