ジキルとハイドな彼

遠く幼い頃の夢を見る。

「匠!どうしてお兄さんなのに燁子のお人形を壊したりするの?!」

母親が腰に手を当てながら、4つ上の兄を怒鳴りつけている。

その隣で小学生に上がったばかりの2つ上の姉がギャンギャン泣いている。

床には無残に首がもがれた不細工なパンダのぬいぐるみが力なく床にゴロリと転がっていた。

「燁子が悪いんだ!航生には貸して兄である俺には貸さないなんて間違っているだろう?!」

「間違ってるのは匠でしょ!」

母親は眉を吊り上げて言う。

「燁子のモノは俺のモノ、俺のモノは俺のモノだ!」

なんだよ、それ。ジャイアンか。

幼いながら俺は心の中で突っ込んだ。

母親は兄の頭にゲンコツを食らわす。

「お兄ちゃんなんだから妹に優しくしなさい!」

「何でだよ…どうして俺がここで折檻されなきゃいけないんだ!」

兄は頭を抑えて抗議する。

姉はそんな兄を責めるよう一層大きな声で泣く。

うるさいな…。

「あき、これあげる」

俺は黒のミニカーを差し出した。

あきは泣くのをやめてハッと目を見張る。

「マスタングGT…」

俺はこっくり頷いた。

「僕の宝物をあげるから、トントンちゃんの代わりに大事にして」

トントンちゃんとは不細工なパンダのぬいぐるみである。