ジキルとハイドな彼

家に連れて帰り、木綿の簡素な服のまま沖本薫をベッドに眠らせる。

豊かな黒髪に長い睫毛とスラリと通った鼻筋。

色を失った薄めの唇から微かに寝息が零れる。

このまま眠っていれば可愛いのに。

起きたらやかましいし。


「どうして…また私がここに私がいるの?」

目覚めた沖本薫は思いっきり眉根を寄せて怪訝な顔だ。

…ほら、やっぱり寝てた方が可愛い。

その上、フルーツが食べたい、と我がままを言うので仕方なしに近くのスーパーへ買いに行く。

美味しそうなマスクメロンを買って戻ってくると沖本薫の姿が寝室には見あたらなかった。

まさかあの状態で帰ったのか?

部屋を見渡すとクローゼットの扉が開いていたので、俺は足を忍ばせて近づいて行く。

そっと中の様子を伺うと沖本薫がこちらに背を向け床に座り込んでいる。

その細い肩は微かに震えていた。

ああ…泣いているのか。

手には携帯電話を握りしめているところを見ると、富永に電話をしたのだろう。

繋がる訳ないけど。

そしてようやく自分が騙されていて裏切られたのだと理解したようだ。

「何してるの?」

声を掛けると沖本ビクリと身体を痙攣させた。

「バック…探してた」幽霊でも見たように怯えた顔でこちらへ振り返る。

兎みたいに真っ赤な目を慌てて拭い、携帯電話を後ろ手に隠す。

あんなつまらない男の為に泣くなんて、つくづく馬鹿な女だ。

またそれを俺に隠そうとしている態度が何故か無償に苛立った。