ジキルとハイドな彼

自分のデスクに戻るとニヤケながら後輩の小鳥遊が歩み寄ってくる。

「めっずらしーなあ、葛城さんがお説教食らうとは」

どうやら冷やかしにきたらしい。

「ついつい声掛けちゃいました?葛城さんのタイプっぽいですもんね、沖本薫」

くだらない。

否定する気にもなれず、無視してPC画面のロックを解除する。

「で、何か有力な情報は聞けたんですか?」

そりゃあ、もう…うんざりするほど。

慣れない作り笑顔のせいで顔面の筋肉が釣りそうになった。

また、この俺に異性としての興味を全く抱かないところも多少癪に触る。

うっとりとした様子で語る彼が実は犯罪者で、自分は利用されているだけだと知ったら沖本薫はどう思うだろう。

あの女は少しくらい痛い目を見た方がいい。

「富永の愛読書はドストエフスキーで酒はワイルドターキーが好きらしい」

「わー超どうでもいい」

一瞬にして小鳥遊の顔が曇る。

「リスクを負って接触したのに掴めた情報がそれすか?」

小鳥遊は呆れたようにぐるりと目を回した。

「そうだな。かなり有力な情報だな」

小鳥遊は、はい?と聞き返し訝しい視線を俺に向ける。

「あの女は多分何も知らない。恋人が犯罪者だなんて夢にも思ってない」

「じゃあ、コレ以上沖本薫に張り付くのは無駄すかね」

小鳥遊は椅子の背もたれに寄り掛かりかったるそうに伸びをする。

「いや、あながちそうでも無いかもしれない」

ホワイトボートの能天気な笑顔にチラリと目を向けると思わず笑みが零れる。

「随分沖本薫にご執心ですね」

小鳥遊はデスクに肘をつき、呆れたようにぐるりと目を回し肩を竦めた。