地味で単調な毎日を送り、たまにお洒落して外出したところでこの体たらく…。

ガックリと肩を落とし、ドレスにハイヒール姿で倒れた自転車を起こして行く。

沖本薫は俯きながら指先で目元を拭った。

ああ、泣いてるんだ。

なんだか放っておけなくて、店を飛び出し自然と沖本薫の元へと向かっていた。

さりげなく倒れた自転車を起こしていく。

「ありがとうございます」

メソメソ泣いているのを隠すよう沖本薫は俯いたままお礼を言う。

顔を覚えられないので、好都合だ。

全ての自転車を起こし終わると、俺はそそくさと立ち去ろうとする。

が、しかし「あの!」と呼び止められたので、反射的に振り返ってしまった。

しまった…

そう思った時は既に遅く、沖本薫は俺の顔を穴があくんじゃないかってほどジッと見つめている。

こうゆう時、顔がいいって損だ。

…自慢じゃなくて本気でね。

本当は俺の存在を沖本薫に知られる事はあってはならない事だった。

それをまざまざと自らから破るような真似をするなんて…。

どうしてこんな愚かな真似をしてしまったのか信じられなかった。

それも、このドジな女のせいで。

沖本薫にチラリと視線を向けるとバチっと目が合い、嬉しそうにニヤリとだらしない笑みを浮かびた。

何だかその笑顔を見ていると憎めない。

これが俺と沖本薫のファーストコンタクト。