ジキルとハイドな彼

アジャンタはヒルズから歩いて15分ほどのところにあるインド料理の店で本格的なインドカレーが食べられる。

聡がお気に入りだったので、付き合っていた頃に何度か脚を運んだ。

商業施設から出て六本木通り添いの歩道を並んで歩く。

平日の昼間にのんびり歩くなんて久しぶりだ。

朝昼は肌寒いが、日中はポカポカと暖かい陽気だ。

「薫とこうやって歩くのも最後だな」

「そうだね」私は素っ気ない返事を返す。

「お前男出来たろ?」

「はああ?!」思わぬぶっ込みに思わず声がデカくなる。

すれ違ったOLの集団がビクリとこちらを振り向いた。

「相変わらずリアクションでかいなあ。図星だろ」聡はニヤリと笑った。

「俺の事もまったく恋しがっていた様子はないしなあ」

「お、男なんて出来てないわ!」

とは言いつつも、昨日のコウとの戯れが頭を過り思わず赤くなる。

「じゃあ、女?」

「いや!男だし!」

「ほらー。別に気を使わなくていいんだぜ。俺も散々迷惑掛けちゃったしなあ。ちょっと気持ちの切り替え早過ぎだろ、とも思ったけど」

「男だけど彼氏じゃない。ふ、フラれたし」

「なあんだよー!薫ー!その地味な服の下にあるナイスバディで迫ってやればよかったじゃんかあ!」

聡は陽気に肩をバシバシ叩く。

迫った上でフラれたので、返す言葉がなく黙り込む。

「え…まさか、本当に体当たりして…?」

聡もフォローの言葉が出ないようだ。

「アジャンタのカレーはさー」

話をすり替えようとしている。こんな馬鹿に気を遣われるなんて情けなくなる。