ジキルとハイドな彼

「マネーロンダリング、とはどういうことかご存じかな、薫くん」

まるでワトソン君、とでも言いたげな口ぶりだ。

「少し知ってるわよ。会社の研修で犯罪収益移転防止法を勉強したから。悪いお金を綺麗なお金に換えるために複雑な手続きを得て出所をわからなくするんでしょう。」

「さっすが!一部上場の金融関連会社にお勤めなだけあるな」

聡は肩を竦める。その茶化した態度がイラっとした。

「いつまでも利用されるのはまっぴらだった。だから組織がマネーロンダリングしている証拠を集めて貸金庫に隠した」

「じゃあ、さっき貴方と引き換えに渡した鍵って…」私は大きく目を見開く。

「察しの通りその証拠が入っている貸金庫の鍵だよ。ダイヤのネックレスに隠したナノチップには暗証番号が登録されて、その二つが揃わないと開けられない」

「そんな危険なもんをよくも預けてくれたわね!」

私は目を三角に吊り上げる。

そのせいでどれ程恐ろしい目に遭った事か。

「悪いな、薫。」

しかし聡はまったく悪びれずに言う。

もう一発くらい殴っておけばよかった。勿論グーで。

「しかし、こそこそ裏で嗅ぎ回ってたのが黒龍会に思いのほか早くバレてしまったのは計算外だったよなー」

まるで他人事のような呑気な口調で言う。

「告発するためにマネーロンダリングの証拠を収集したの?」

「いや、ゆすって黒龍会から金を引っ張るためだ」

ダメ…じゃん。

私はコーヒーを口から吹き出しそうになるのを何とかこらえた。