ジキルとハイドな彼

ホッとして膝から崩れ落ちそうになると、タイミングよくカナやんの着歌が聞こえてくる。

「はい」私は慌てて電話に出ると『着いたか』と例のごとくダミ声が聞こえて来た。

「今展望室の入口にいるわ」

『よし、そのまま電話を切らずに中に入れ』

展望室は360度一面ガラス張りになっており眼下に東京の街並みを一望出来る。

間近に東京タワーが見えた。

こんな状況じゃなければ、窓からの景色を楽しめたかもしれない。

今度改めて来よう。…友里恵と。

『展望室の中にラウンジがある。そこのソファーに彼氏と俺が座っている』

言われた通りフロアをぐるっと一周すると一角にラウンジが見えた。

私に気がつくと男が手を上げる。

聡…

くたびれた格好をして無精髭を蓄えていたが紛れもなく聡だった。

隣にはニット帽を目深に被ったあからさまに怪しげな男が座っていた。

「薫ー!」

聡がブンブンと手を振り大声で叫ぶ。

私は携帯電話を切って、2人の元にズンズンと歩み寄っていく。

「お待たせしました」

酒やけ男は私の頭から爪先まで値踏みするよう視線を巡らせた。

帽子に隠れてよく見えないが年齢は私と同じくらいか、少し下でまだ若いようだ。

あばたの肌に痛んだ金髪がニット帽から覗いていた。

ポケットに入れたままの左手には何か筒のような物が握られていて聡に押し当てられている。

あれ絶対物騒なものよね…。

一気に心拍数が上昇する。