ジキルとハイドな彼

コウは胸に手を這わせて服越に触ろうとする。

…が、寸前で留まる。

そこで理性を奮い立たるように一気に私から身体を引き離した。

「なに誘惑してんだ!ばか!危うくやっちゃうとこだったよ!」

コウの形のよい唇は唾液で濡れていて艶かしい。

「お、お楽しみの続き…」

この間の一件を思いだしたのか、コウはバツが悪そうに視線を逸らした。

「そ、それにしても、いきなりすぎるだろ」

「ごめん、ちょっとムラっときちゃってさ」私はてへっと笑って誤魔化そうとする。

「ムラっと…?」コウは信じられないというように目を大きく見開く。

「人が毎日どんな思いでいるのかわかってんのか?」

意味が解らず、私は首を傾げる。

「いいじゃない、いい大人なんだから。余計な事を考えないで楽しめば」

私はコウの胸にそっと手をあて上目でジッと見つめる。

「大人だから余計な事考えるんだよ」

コウは私の手首をつかんで身体を引き離した。

「俺は無理。ムラっときたなら他の男を誘ってくれ」

勇気を出して人生初の誘惑の結果、呆気なく撃沈…。

たった一晩でも受け入れてもらえなかった哀しみや、羞恥が怒りへと変換される。

「誰でもいい訳ないじゃん。このヘタレ!」

私はコウの鳩尾に正拳突きを入れる。

不意の一撃をくらい「うっ」と呻きコウはうずくまった。

他の男を誘え、なんて意地悪をいった罰だ。

…ちょっと逆ギレ的要素も含まれているかもしれないけど。

フンと鼻を鳴らして私はリビングから出て行った。