ジキルとハイドな彼

「薫!薫!」

名前を呼ばれふと我に返るとコウが湯気越に訝しげな表情でこちらを見ている。

「ああ、ごめん。ボウっとしてた」

「手羽先煮えたよ」

「わあ!食べようっと」わざとはしゃいだフリをして箸で鍋をつつく。

今日の晩御飯は水炊きだ。

珍しく仕事を早めに切り上げたコウが用意をしてくれた。

久しぶりに2人揃っての夕飯だ。

「何かあった?」

鋭いコウの指摘に思わずドキっとする。

「ちょっと仕事で揉めてて。疲れちゃったのかな」

「じゃあ沢山食べて元気だして」コウは鍋の具材を取り分けてくれた。

「ありがとう」心使いに頬が緩む。

聡奪還作戦は明日の正午に実行されることとなった。

場所は都庁の展望台を私が指定した。

警備が比較的厳重な公共施設であれば、先方も滅多なことは出来ないはず。

私が明日急用で有給を取りたいと課長に話しても、渋る様子はなかった。

恋人を同僚に寝取られ、押し入り強盗にも遭った不幸続きの私に、仕事の鬼である課長も同情しているようだ。

明日また拉致された元彼を奪還しなければいけない事を知れば、追加で3日くらい有給をくれるかもしれない。

しかし、残念な事にそれは出来ない。

警察はおろか、誰かに話せば聡を殺す、と脅されている。