ジキルとハイドな彼

『君まで巻き込むつもりはなかった。本当にすまない』

辺りを見回すと、お昼で大体の人は席を空けているが、何名かはまだ席に残っている。

「そうしましたら、今から申し上げる携帯の方にご連絡いただけますか」

『それは…出来ない。時間がない。俺は今…身柄を拘束されてるんだ』

生きてはいるが聡の身には危険が迫っている。私は息がとまりそうになった。

「今どこにいるの?」

人目を憚り声を落として尋ねる。

『歩いているところを突然拉致されたから俺にもここがどこかわからない。窓からは海と工場が見える』

「警察に連絡するわ」

『それはやめてくれ!』聡が慌てて引き留める。

『警察が動いていることがバレた時点で俺は…恐らくヤバイ』

最悪の展開を想像して一瞬くらりと目眩がした。

「誰にバレたらマズいの?もしかしてOAE?」

聡は一瞬受話器の向こうで沈黙する。

『それは…今は言えない。薫の身に危険が及ぶかもしれないから』

何を今更、とっくに危険が及んでるわ。

と、思いつつも、問い詰めている場合ではなさそうだ。

「一体今更何の用があって掛けて来たのよ?」

『俺が薫に渡した鍵があるだろう』

『鍵って?』はて?何の事だったろうと私は考え込む。

「ダイヤのネックレスと一緒に預けた貸し金庫の鍵だ」

私はハッとして目を見張る。

確かプロポーズ的な話をされた時に一緒に鍵を預かっていたのを思い出す。