ジキルとハイドな彼

「偶然だねー!」

私はチラリと隣に目を向ける。珠希は背の高いスーツを着た男性と一緒に来ているようだ。

男性は髪を短く刈り上げて精悍なスポーツマン、と言った爽やかな風采だ。

「あらあ!もしかして噂の彼?」

私が興味津々で尋ねると「いや、そんなんじゃないんだけど…」と言って珠希は歯切れが悪そうにはぐらかす。

照れているのだろうか?

しかし、その表情は幽霊でも見たように青ざめている。

「榎本さん、どうされました?」

一緒にいた男性が珠希の異変に気付き声を掛けた。

「いえ、何でもありません」珠希は俯いたまま応える。

「薫さん、ハーゲンダッツは?」

小鳥遊に声を掛けられる。

「ごめんごめん」慌てて小鳥遊の方に振り向くとその表情は憮然としており、買い物に付き合わされて機嫌が悪いようだ。

「あちらの方は?」珠希がチラリと小鳥遊に視線を向ける。

「ああ、番犬みたいなもんだから気にしないで」

珠希は何か言いたそうな顔をしていたけど、スーパーの片隅で込み入った事を話す訳にもいかず、私は曖昧にはぐらかす。

「じゃ、珠希また連絡するね」

私は意味ありげにニヤリと笑うと、珠希は頷きながら、引き攣った笑みを浮かべる。

「それじゃ行きましょうか、榎本さん」

男性に肩をだかれながら、珠希は入り口の方へと去っていった。