ジキルとハイドな彼

「あの、宿泊したいのですが本日空きはありますか?ツインで」

コウは慣れた様子でカウンターに尋ねる。

クロークの女性は「お待ちください」と言ってパソコンで空き状況を調べる。

緊張の面持ちの私とは正反対に「ございます」と女性はニッコリ笑顔で回答する。

どどどど…どうしよう。

予期せぬ事態に私は動揺しまくりだ。

その時、コウの携帯電話が鳴った。

「失礼、少しお待ちください」

コウはペコリと頭を下げると一旦カウンターを後にして、電話に出る。

「はい、葛城です…あき?」

あき…という名前を聞いて心蔵の鼓動が大きく跳ねた。

その名前は聞いたことがある。

以前、コウが寝ぼけていた時に呼んでいた名前だ。

コウは私に背を向けて少し離れたところで話始める。私は全身の神経を聴力に集中させた。

「え?今から?無理だよ。今外だし」何だかちょっと困っている様子だ。

「えー…」とか「勘弁してくれよ…」など気乗りしない相槌を打っている。

最後に「わかった。じゃあ来る時連絡して」と言い残すと電話を切った。

「予定変更だ」と言って、私の肩を抱くと再びカウンターへと戻る。

「やっぱりシングルルームは空いてますか」

「は?」私は驚いて聞き返した。

女性は「お調べします」と言って再びパソコンで検索する。

「どういうこと?」

「薫はすっかりこのホテルが気に入ったようだね。支払いは僕がするから、よかったら今晩は泊っていってゆっくりするといいよ」

コウはさっきとはうって変って満面の笑みを浮かべる。

それに僕ってなんだ、僕って。