ジキルとハイドな彼

コウは此方にクルリと振り向いた。

「そんなに気に入ったなら、泊っていく?」

「…え?」私は目を皿のように見開き、ギクリと固まった。

「ああ…いや、違うの。そういう意味で言った訳ではないのよ」

みるみるうちに顔が真っ赤になり手を横に振る。

「俺はそういう意味で言ってるんだけど、薫は嫌?」

コウは身を屈めて私の顔を覗きこむ。

「いや…」

「嫌なの?」

長い睫毛に縁どられた漆黒の瞳にジッと見つめられると思考が停止してしまう。

「イヤ…っていうのは、嫌っていうイヤなわけじゃなくて、どちらかと言えば接続詞的な意味のイヤであって」

「よく意味が解らないな」コウは整った眉を顰める。

「いやー何かどうなのかなーと思って…色々と」

「なんか面倒くさい。余計な事考えてないで行くよ」

そのままコウは私の手を引いてホテルのフロントへ向かう。

いやいやいや―――あ、これも接続詞的な意味の方で―――マズイでしょ?

コウと私は事件の被害者とそれを捜査する警察な訳だし。

そもそも不良達につけ狙われてて、こんなお泊りとかしている状況でもない訳だし。

そのうえコウと出会って間もない訳だし。

そいでもってまだ傷心真っ最中な訳だし。

お断りする言い訳ならいくらでも想い浮かんでくる。

だけど、繋いだ手を私は振りほどくことは出来ない。