ジキルとハイドな彼

「では彼と出会った場所は」

「…出会った場所はバーよ。どこにでもあるようなこじんまりとしたお店」

そう言って私は聡と出会った夜に思いを馳せる。


同僚に彼氏を寝とられた一件のあと、私は荒れた。荒れまくった。

20代最後の反抗期、と言われたほどだ。

友人や同僚を誘っては連日飲み歩いていた。

荒廃した生活で肌もボロボロ、心もボロボロ。

その日も、高校からの悪友である本条友里恵といつものように飲んだくれた後に、ぶらりと1件のバーに立ち寄った。

店内はカウンターと2、3席のテーブル席のみの、こじんまりとした店構えで、マスターが一人で切り盛りしているようだった。

友里恵とテーブル席に向かい合わせて座り、先日読んだ本について熱く語っていた。

「だからさー、その漫画で深いこと言ってたわけよ」

…挿絵付きの、むしろ挿絵メインの本である。

「漫画のセリフが深いってよくわからないわ」

友里恵は美しく整えられた眉を顰める。

「薫、あんた今年の誕生日で三十路突入でしょ?何かにつけて二次元の世界に引き籠もるのはやめれば?」

「だって、純粋な愛とか、変わらない気持ち、なんてものは二次元の世界にしか存在しないもの。現実の恋愛なんて打算と妥協ばっかり。気持ちもすぐに変わるじゃない」

私が鼻の頭に皺をよせると、友里恵は片眉をあげてため息をつく。

「一見、派手に見えるけど、そもそも根がオタク気質なのよね」

カワイイ顔して辛辣なことをさらりと言ってのける。

「オタクじゃないもん。ちょっとロマンチストなだけだもん!」

三十路のオタクはかなりいただけないので私はムキになって否定する。