ジキルとハイドな彼

「殺される、と思ったので、近づいてきた時に手に持っていたスプレーを強盗の顔に吹きかけました」

「それで?」尾花が先を促す。

「スプレーが眼に入って痛がっていてました。隙が出来て、チャンスだと思ったので、ナイフを持っていた腕を王蟲のブロンズ像で殴りました」

尾花が押収品リストに目を落とす

「あれ、大事な物でしたよね?」

「命には代えられません」

まあ、確かに、と言ったものの、尾花はどこか腑に落ちない様子だ。

「それで、犯人は?」コウが質問し空気を代えた。

「腕を抑えて蹲っていました。殴った時にゴキって感触がしたから」

「折れてるな」田所のおっさんが呟く。尾花も肯定するように首を縦に降り、折れたでしょうね、と頷いた。

「あなたが王…押収品12番で殴りつけると強盗は利き腕を負傷した、ということですね」

コウは表情を変えることなく、念を押した。

私は居たたまれない気持ちで、恐らく、とだけ消え入りそうな声で言った。

ああ、最悪。

彼の胸で肩をふるわせ、さめざめ泣いていたか弱い女性が、実はその前に強盗の腕をへし折っていたなんて…。

コウはどう思ったことだろう。

ちらりと盗み見てみるが相変わらずのポーカーフェースからは何も読み取れない。

おっさんと尾花は引きつった表情をして正直、引いていた。

「では凶器のナイフは?」コウが続けて尋ねる。

「殴った時に取り落としたので、窓の外に捨てました」

それを聞くと、コウは田所のおっさんへ顔をむける。おっさんは一つ頷き、今まで見たことのない俊敏さで部屋を出て行った。

まさに、あ、うんの呼吸。