ジキルとハイドな彼

黒い影はびくりと身体を硬直させると、ゆっくりとこちらを振り向く。

黒いトレーナーに黒いズボン、そして目だし帽をかぶっており、その不気味な居でたちにゾッとする。

身長は170cm前後か。体格から推測すると男性のようだ。

「あ、あのー警察には通報しないのでそのまま出て行ってもらえますか?」

震える声で説得力のない説得を試みる。

男はポケットから、キラリと光るものを取り出す。

…でた、凶器。

シミュレーションでも、ナイフの登場は想定していた。

しかし、男の持つサバイバルナイフと比べると、カッターに毛が生えたようなものだった。

ジリジリとナイフをかざし男が近寄ってくる。恐怖で頭がおかしくなりそうだ。

「これ以上近寄らないで」

正気を保つため精一杯、目だし帽から除く瞳を睨みつける。

強盗の目は無機質で何も感情が読みとれなかった。

あと数歩で男の手が届きそうな距離まで近づいた。

…今だ!

後ろ手で隠したスプレーを男の顔目掛けて噴射する。

男は不意をつかれたのか、顔を手で覆い、のけぞった。

その隙をつき、ナイフを握った方の腕を目掛けて王蟲のブロンズ像を力いっぱい振り落とす。

火事場の馬鹿力というやつか、ゴキ…という鈍い触感が王蟲を通じて伝わってきた。

手からサバイバルナイフが転がり落ち、強盗は腕を抑えて屈みこむ。

私は咄嗟にサバイバルナイフを拾いあげて窓の外に放り投げた。

頭は真っ白だったが、防衛本能で玄関へ一気に駆け出す。