ジキルとハイドな彼

「葛城さんの下のお名前は?」

「航生です。葛城航生といいます。私のことも下の名前で呼んでください。親しい人にはコウ、と呼ばれていたりしています」

「じゃあ、私は航生さんとお呼びしますね」

葛城の顔が一瞬で曇る。

「こちらに越して来たばかりで、土地勘もなく心細い思いをしていたので、友人を作ろうとお茶に誘ってはみたものの、あっさり距離を置かれてしまいましたね。やはり東京とは不人情な街なのでしょうか…」

ああ、と顔に手をあて刹那げにため息をつく。

美しい人に悲しい思いをさせてしまったことに罪悪感を抱き私は焦って取り繕う。

「いや、そういうわけじゃないのよ。ただそんな会ったばかりでいきなり呼び捨てにするのは馴れ馴れしいかと思って」

葛城はハッと目を見張る。

「それは裏を返せば、私は薫に馴れ馴れしいと思われているということでしょうか」

「お、お、思ってないよ!」図星をつかれ動揺し、声が上ずる。

しかし、葛城はそれを気に留める様子はない。

「ああ、よかった。ではコウ、と読んでくださいね」再び花のような頬笑みをうかべた。

そんな顔をされちゃあ、私に反論の余地もなく、こくりと頷く。

「では呼んでみてください」

「え?!」嫌そうに眉を顰めると、葛城はあからさまにシュンと肩をすぼめる。

なんだかチョット面倒臭い男だ。

「わかりました、コウ。とりあえずバームクーヘン食べましょう。お腹すいちゃったから」

照れ隠しで切り分けてくれたバームクーヘンをそそくさといただく。

「ありがとう、薫。マカロンもあるよ」

嬉しそうにマカロンが並べられたお皿を差し出す。

思わず頬が緩んでしまった。私はこのお菓子が大好きだ。