ジキルとハイドな彼

コウは私の肩を引き寄せた。

だから、強引過ぎるっつーの。

いい男はなにされても許されるっつー奢りよね。完全に。

次の瞬間、首筋に柔らかく生暖かい感触が触れて、私の思考は停止する。

コウは首筋に何度か軽くキスを落し、唇をそのまま這わせて耳を軽く噛む。

思わず身体がぴくりと反応してしまった。

真っ赤になって首を抑える私の様子を見て、コウはしてやったとニヤリと笑う。

こんの、どスケべ!

私は横目で睨みつけた。

「ごめん、ちょっと電話」

合図だ。コウは席を外して表に出る。

手持ち無沙汰を装ってグラスのワインをクルクル回す。

「薫ちゃん、今の新しい彼?」

案の定マスターが誘いに乗ってくる。コウに興味津々のようだ。

鞄の中にそっと手を差し入れて、ボイスレコーダーをオンにする。

「ええ、まあ、そんなとこ」

「じゃあ富永くんとは?」

「もう別れたわ。というか連絡つかなくなっちゃって。最近聡この店には来るの?」

私はさりげなさを装って尋ねる。

「最近はあんまり姿を見ないわね。薫ちゃんみたいなきちんとしたトコのお譲さんは別れた方が正解だったかも」

想わせぶりな事を口走りマスターはワイングラスを磨き始める。

「どうゆうこと?」私が眉根を寄せて尋ねる。

「薫ちゃん『黒龍会』って知ってる?」

マスターに尋ねられて私は首を横に振る。

「何それ?社会人サークルかなんか?」

マスターは私の問いにタハっと苦笑いを浮かべ、人差し指を頬に当て上から下に走らせた。

物騒な職業を表すジェスチャーだろう。